故 内館牧子さんの小説『小さな神たちの祭り』(小社刊)を原作に、震災から15年を機に初の舞台が上演される。主演は宮城出身の八乙女 光さん(Hey! Say! JUMP)。福島出身で主人公の祖父役を演じる斉藤 暁さんに作品と、故郷への思いについて伺った。
(パンプキン2026年4月号より転載。取材・文=石井美佐 撮影=富本真之)
震災で街も故郷もたくさんの人の中で何かが壊れた
この3月、東日本大震災から15年を迎えた。あの日、あなたはどこで、何をしていただろうか? 時の経過と共に記憶は薄れていくが、死者1万9782人、いまだに2550人余りが行方不明(令和7年3月1日時点、総務省消防庁発表)。まだ忘れることなどできない人もたくさんいる。
昨年末に亡くなられ、本誌でもおなじみだった内館牧子さんの震災後をテーマにした小説『小さな神たちの祭り』を原作に、この春、舞台が上演される。震災で亡くなった家族と生き残った若者をつなぐタクシー運転手であり祖父役を、名バイプレーヤーとしてさまざまな舞台や映像作品で活躍中の斉藤暁さんが演じる。
「あの日、僕は東京のジムで運動をしている最中で、突然の大きな揺れで立っていることができなくて、そこにいるみんなで一か所に集まってしゃがみ込んでいました。
その後、原発が爆発して福島の人たちが調布のスタジアムに避難していると聞いて、いても立ってもいられなくて世田谷から自転車で調布に向かいました。辿り着いたんですが、犬を置いてきてしまったと泣いている女の人がいたり混沌としている。たくさんの人たちを前に何もできず、ただただぼうぜんとするだけの自分がいました。あぜんとする以外、何もできなかったんです」
斉藤さんは郡山市の出身。実家も被災している。
「おふくろは老人ホームに入っていたんですが、地震で部屋のガラスが割れ、タンスは倒れ、よほど怖かったんでしょうね。あの部屋には戻りたくないと言うようになり、きょうだいみんなで必死に別のホームを探してそちらに移りました。でもそれをきっかけに認知症が進んで、ずーっと床を見ているようになり、床を見てはにっこり笑ったりしている。僕が行ってもわからないし、震災で何かが壊れてしまったんだと思います。母だけでなく、きっと壊れてしまった人はたくさんいるでしょう。街も故郷も壊れましたが人も人の心も壊れてしまった――」
人と土地を結ぶ祭りのもつ力
いちご農家の長男・谷川 晃(八乙女 光)は、故郷の宮城県亘理町を離れ、東京で震災に遭うが、家族は全員が津波に襲われて行方不明になる。街の復興は進んでも消息がわからないなか「自分だけが幸せになるわけにいかない」と苦しみ続け、恋人との結婚にも踏み出せない。そんな晃が、ある日、タクシーに乗ると着いたのは津波でなくなったはずの実家だった――。そこには元気な家族が待っていてくれる。
『小さな神たちの祭り』は、そんなファンタジーのような作品。行方のわからない家族に会いたい。震災で家族全員を突然失ってからどう歩けばいいかわからない若者が、あっちの世で元気に暮らす家族に再会してやっと一歩を踏み出すことができるまでが描かれている。斉藤さんが演じるのは、晃を乗せてあの世とこの世をつないでいくタクシーの運転手でありおじいちゃんでもある行雄。
「郡山出身なので、この舞台に関わらせていただくのはとてもうれしいし、特別な思いです。東北でも上演されますし、できれば小さな会場でもいいのでもっともっと東北のすみずみまで行って上演できたらいいのにと願っています。
それに震災後、タクシーに乗せたはずの人が、後ろを見るといなくなっていて座席が濡れていた、といったような話はずいぶんたくさん聞きました。運転手さんの話によると、わかるんだそうです。この人、きっと帰りたいんだろうなって。実際に晃のような思いを抱いている人、経験をした人はたくさんいるでしょうね。だからファンタジーのような面とじつは実体験のようなリアルな面と、両方あるような気がします」
逝ってしまった家族や町の人たちと再会した晃は、あの世には祭りがないことを知る。そして家族と灯籠流しをすることでやっと前を向く。
生前、内館さんは震災後に人がいなくなり街が壊れて各地に伝わってきた祭りができなくなっていくことを憂えていた。祭りは人と人をつなぎ、地域を元気に復興するためには大切なものだ、と。秋田で生まれ、東北とは縁が深く、通った先々でもたくさん祭りで街が熱気を帯びる姿を見てこられたのではないだろうか。
「僕は高校を卒業して地元のテレビ局に就職したんですが、あるとき、みんなで郡山で行われる"うねめまつり"を局も協力してもっと盛り上げようということになりました。もともと郡山には采女伝説という悲恋の物語が伝わっているんですが、その話をもとにしてできた夏祭りで、わりと新しい祭りだと思います。でもどんどん盛り上がって、今はたくさん人が参加してみんなで楽しむ祭りになっています。やっぱり祭りがあれば人は、街は、活気が出ますよね」
