"当たり前"に安心し、"変"であることを恐れてはいませんか?
医師の鎌田 實さんの『女の〝変さ値〟』はまさにその"変"な部分こそが、その人の魅力だと伝える一冊。
どうして、今こそ"変さ値"が重要なのか、お話を伺いました。
(「パンプキン」2026年6月号より転載。 取材・文=小山田桐子 撮影=富本真之、下村一喜、水島洋子)
"変さ値"
学歴、収入、地位など世間の物差しにとらわれ、自分と人を比べ、生きづらさを感じている人は少なくない。医師の鎌田實さんの最新刊『女の〝変さ値〟』はそうした既存の価値観から解き放ってくれるような鮮烈な一冊だ。「変さ値」とは、鎌田さんの造語で、人とは違う自分らしさやユーモアのこと。鎌田さんが語る、黒柳徹子さんや元厚生労働事務次官の村木厚子さんといった10人の女性たちは自分らしい方法でガラスの天井を突破してきた、まさに「変さ値」が高い人びとだ。
「僕は偏差値で人生が決められちゃうなんて許せないとずっと思っていて、ボランティアで命の授業をする際にも、若い人たちに向けて、変さ値のほうが大事なんだって伝え続けてきたんです。だけど、むしろ、働き盛りの人やシニアの人にこそ伝えたい言葉だなと思うようになった。月刊「潮」での連載時は「『ガラスの天井』を破る女性たち」というタイトルだったんです。女性はガラスの天井がある分、しんどい思いをしている。だからこそ、その天井を正面からぶち破ったり、するりと抜けたり、それぞれの方法で突破してきた女性たちって男性よりもかなり変さ値が高いんです。そんな女性たちの姿を発信することで、日本の女性たちの刺激になると思ったし、男たちにももっとしっかりしろよって伝えられるんじゃないかなと。そうやって、みんなが変さ値を高めていけば、日本はもっとおもしろくなると思うんです」
一緒に裸足で歩くという発想
ガラスの天井を破る女性たちの話というと、苦労話をイメージするかもしれないが、
10人の女性たちの話の多くは、前向きで、ユニークで苦労すらも楽しもうというエネルギーにあふれている。
「加藤登紀子さんの子育てエピソードなんですけど、大雨の日に、次女が長靴を履きたくない、裸足で帰るって言い出したんですって。どうせ雨が入ってびしょびしょになるからって。加藤さんは叱るどころか、自分も靴を脱いで、一緒に裸足で明治通りを歩いた。こんな素敵な判断ができるお母さんっていいな、と思うんです。こういう加藤さんの自由な発想って、お母さんの影響を強く受けてるんじゃないかな。加藤さんが小さいころ、あばら家の屋根が台風で飛ばされてしまったんだけど、起こしに来たお母さんが『青空よ!きれいよ』って言ったというのね。男たちだったら、屋根にブルーシートを掛けなきゃとまず思ってしまいそうなところ、きれいだと空を見上げる感性がすごい。家族のことや家のことを、"当たり前"に当てはめて全部解決していくんじゃなくて、時には、みんなと違う、自分の感じ方、判断ができる。そういう人になっていくことが大事なことなのかな、と」
"当たり前"とは違う選択
「偏差値」よりも「変さ値」。そんなふうに考えるようになったのは、自身の人生もまた、かなり"変"だったからだと鎌田さんは言う。
「僕は東京の国立大学を卒業したのですが、周りが都内の病院を選ぶなか、僕一人だけが地方の病院を選んだ。就職した病院も有名ではなく、4億円の累積赤字を抱え、医者も集まらない、崖っぷちの病院。同級生にはもう一生偉くなれないぞと言われましたが、別に偉くなれなくてもいいなっていうふうに思ったし、医者がいなくて困っている病院なら、若造の僕でも役に立つはずだって思ったんですよね。そういう"当たり前"とは違う選択を、自分自身いっぱいしてきた。30代で赤字だった病院の病院長になったときもそうです。病院長として黒字にして、人が集まる病院にするためには、当たり前のことはちゃんと当たり前としてやりつつ、どこか大事な局面ではみんなと違う選択をせざるをえない。勇気がいりますが、大事なことだと思っています」
自分の「変さ」を大切にできる人は、他人の「変さ」も大切にできるというのが鎌田さんの考えだ。
「趣味のサークル活動でも、職場でも、ちょっと変わった人というのはいる。そういう人を自分と違う、みんなと違うと弾かずに、付き合っていくと、自分では気づけないようなおもしろい発見があったりするんです。完全にわかり合うことはできなくても、お互いちょっと変だよねって、協力できるところは協力していけたら、人間が一回り大きくなるんじゃないかという気がします」
壁を乗り越えるオシャレな判断
"変さ値"の高い生き方とは周囲の空気に支配されず、自分が人生の支配者になることだと言う。自分の人生を生きるのに年齢も性別も関係ない。この本はすべての人に向けた鎌田さんの熱いエールともいえる。
「変さ値の『変』って、変化の変でもあるというふうに、僕はこの本の中でも書いたんだけど、『変』って言葉はいろんなとらえ方ができると思うんです。ものすごく売れているときに、ぱっとアメリカ遊学してしまう阿川佐和子さんの変化を恐れない姿勢、舞踊歴70年以上の現役バレリーナとして変わらず努力を続ける森下洋子さんの継続力、遠位型ミオパチーの患者で、体が動かなくなっていっても、出産を決意し、子どもを育てる織田友理子さんの諦めない力。どれも生きていくうえで大切な変さ値のひとつだと思うんです。勉強はできないけれど、努力なら私もできるとか、変わることだったらできるとか、自分の強みをきっとだれしももっている。生きていると社会でも家庭でもいろんなことが起こるし、いつも順風満帆とはいえない。何か起きたときに当たり前のつまんない反応をするんじゃなくて、ユーモアで上手に乗り越える、オシャレな判断ってありうると思うんです。この本がそういう生きるうえでのヒントになってくれるとうれしいですね」

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