2024年3月に、日本人として初めて国際刑事裁判所所長に就任した赤根智子さんに女性の社会進出や日本の役割、今後の抱負について伺った。(『潮』2024年6月号より転載)

国際刑事裁判所所長を務める赤根智子さん
日本人として初のICC所長に就任
私は2024年3月に、オランダ・ハーグに本部を置く国際刑事裁判所(以下、ICC)の所長に選出されました。ICCの所長は、ICCの裁判官の投票によって選ばれます。仲間の裁判官から選出されたことを、とても光栄に思っています。
日本人がICCの所長に就任するのは初めてということもあり、新聞をはじめとしたメディアが多数とりあげてくださいました。多くの方から応援やお祝いの言葉もいただき、心から感謝しております。
みなさんご承知のように、現在、国際社会は大きな危機を抱えています。このような状況下でのICC所長の職務には、大変困難な舵取りが求められるでしょう。その責任の重大さをひしひしと感じています。
ただこのような時期だからこそ、前例がないからやらないといった態度ではなく、何とか知恵を絞り、新しい活路を切り開いていきたい。法の支配を広めていくことにより、世界の平和を実現したい。そんな強い気持ちで、職務に取り組んでまいります。
戦争犯罪などの個人の責任を追及
ICCは、国連全権外交使節会議で採択された「ローマ規程」に基づき、この条約の加盟国によって2002年に創設されました。現在、ICCの加盟国は124カ国。日本は2007年に加盟しています。
ただアメリカや中国、ロシア、インドといった大国はICCに加盟していません。そのような状況のなか、外交政策の柱として国際社会における法の支配の強化を掲げる日本は、ICCを強力に支援しています。現在、世界でもっとも多くの拠出金を負担しています。
ICCが対象とするのは国際的に極めて重大な犯罪です。具体的に言うとジェノサイド(集団殺害犯罪)、人道に対する犯罪、戦争犯罪、侵略犯罪の4つです。中核犯罪(コア・クライム)とも呼ばれるこれらの犯罪を対象に、個人の刑事責任を追及するところが、ICCの大きな特徴です。
よく国際司法裁判所(ICJ)と混同されますが、ICJは国家間の紛争解決を目指す国連の機関です。いっぽうICCは国連とは独立した機関で、あくまで個人の刑事責任を追及することで、同様の犯罪の抑止を目指しています。
ICCは各国の裁判所の上位的存在ではありません。各国の裁判所を代替する機関でもありません。本来は中核犯罪も国家が裁くべきなのですが、それができない場合にICCが補完して裁くのです。
ICCは加盟国および非加盟国の協力を前提として成り立っています。今回のロシアによるウクライナ侵攻に関連して、プーチン大統領らが占領地域からの子供連れ去りに関与したとして、ICCは逮捕状を出しました。とはいえICCは、被疑者の身柄を拘束できる警察のような法執行機関は、持っていません。ただICC加盟国は、ICCが逮捕状を出した人間が国内に入れば、逮捕状を執行し、逮捕する義務があります。
ICCの判事という立場から、特定の捜査や事件に関して、踏み込んだ発言はできません。ただし、一般論として述べるのであれば、一度出された逮捕状には有効期限はありません。
加盟国・非加盟国との対話を重ねながら、任務の遂行に向けて最後まで努力していきたいと考えています。