聖教新聞で2022年3月から23年12月まで連載した企画「SOKAの現場」。本連載をまとめた書籍『「外部」と見た創価学会の現場』が好評を博しています。書籍化に際して収録した対談を特別公開します。
創価学会のなかの「秩序」に迫りたい
開沼 私は、2022年から23年にかけて、「聖教新聞」紙上の連載で、かねて関心のあった創価学会の内実に迫るため、100名以上の創価学会員に話を聞きました。インフォーマルな出会いも含めると、この間にさらに多くの人に会い、日常の習慣を見せてもらい、参与観察(調査対象とする社会や集団のなかに身を置く調査方法)を進めてきました。
公称800万世帯という巨大組織が、どのような秩序によって成り立っているのか――。これが、私が創価学会の研究を始めるにあたって立てた問いです。そして、なぜ研究を始めたのか。それは、創価学会が不思議だったからです。これは多くの「外部」=非学会員にとってもそうでしょう。無関心を装っている人の中でも相当な興味をもっている人は多い。そして、分かった部分が増えるほど、不思議な部分も増えていくなという感覚で見ています。
佐藤 なるほど。具体的には何が分かったことで、何がまだ不思議に思っていることですか。
開沼 まず、私自身、生きてきた中で、創価学会員との接点は皆無でした。周囲では折伏されたという話とか、あの人は学会員だろうという人もいた。でも、「学会員と学会について話す機会」は一度もありませんでした。「外部」から創価学会を見る人の中には、他の宗教も含めてですが、「全体主義的な組織」「非科学的な思考をする人の集団」という紋切り型のイメージを持つ人は多い。
直近の旧統一教会問題、30年ほど前のオウム真理教事件、あるいは創価学会自体がという意味では半世紀以上前の言論出版妨害事件などと、メディアで流布される言説がその大衆意識を支えています。
佐藤 創価学会について正視眼で捉え、虚心坦懐に語る人があまりに少ないからと思います。
開沼 選挙の数字をみれば、少なくとも600万人以上の(創価学会が支持母体の公明党を支持する)人がその中や近くにいる。その全員が同質で思考停止して、例えば医者も弁護士も科学者も含まれる中で、非科学的盲信をしているわけではなかろうとも考えていました。
佐藤 実際に内部を見てどうでしたか。
開沼 時代によって変遷はあったのかもしれませんが、内部と外部の境目がこんなにゆるい、曖昧なものなんだ、とか、内部にもヘビーユーザーとライトユーザーのグラデーションがあるんだとか、意外な細部が見えてきました。折伏が激しいイメージもありましたが、時代や世代の中で変わってきていて、人によるとは思いますが、かなりふわっとしてきている。ただ、そんな曖昧でゆるい、多様性がある集団だとすれば、まとまるべきときにまとまらなくなるはずで、そこはどういうメカニズムで集団意識を再生産し続けているのかまだ良く分からない。特に学会員=内部の人が「日蓮大聖人」「三代会長」との師弟関係を真剣に感じている。そういう人が本当に多いのは、なぜそうなり得るのか、外部の私からは理解しきれません。
他方で、創価学会については、佐藤さんや田原総一朗さんが外部の人々にも読める本を書かれています。改めて本を読むことで、自分の理解の濃淡を認識できました。
佐藤 理解できた部分と理解できていない部分の境界線はどのあたりにありますか。
開沼 私自身の関心は、宗教の根幹にある教義や週刊誌等が好む池田大作氏や組織幹部についてではなく、なぜ・いかにその巨大な集団の秩序が持続可能なのかという点にあります。その意味では、教義に関わる部分は理解しきれず、一方、生活上の実践についてはだいぶクリアになりました。
佐藤 創価学会は2014年に、従来の教学を一部見直して、独自性を明確にし、世界宗教として新たな段階へ飛躍するために教義条項を改正しています。私はそのことが聖教新聞紙上で発表されたときに、キリスト教の神学の歴史に照らして「これは100年事業になるな」と感じました。
世界宗教の正典(キャノン、規範となる経典のこと)は閉じていなければなりません。2018年に池田氏の『新・人間革命』全30巻・31冊が完結し、『人間革命』全12巻と合わせた創価学会の「精神の正史」「信心の教科書」はこれ以上増えない形で閉じました。そして、『日蓮大聖人御書全集 新版』を、池田氏が監修する形で刊行しました。『人間革命』と『新・人間革命』、そして新版御書――この三つによって創価学会の正典は閉じたわけです。
開沼 いま教義としては一つの全体像が確立された、その直後の時期にあたると見るべきだということですね。
佐藤 私はそう考えています。創価学会のこの三つの正典の量は、おそらくキリスト教の聖書の5倍くらいはあると思います。これは、正確に暗唱することはできないけれども、「あそこにあの話があったな」という形でランダムアクセスができる量なんです。したがって、会員は自身が何かの問題に直面したときに、テキストに即しながら実践することができる。世界宗教にとっては、これがすごく重要なんです。
開沼 参与観察の中でも度々そういう体験談は聞きました。
佐藤 テキストを読んで、皆で語り合い、追体験していく。この"テキストによって結びつく"というのが、他の仏教系教団にはない創価学会独自の優れた点です。