• 社会

ヒグマのプロが語る クマ対策の誤解と課題

猟友会の善意に頼る駆除の限界


先述のように猟友会はあくまでも一般の狩猟愛好家の集まりだ。にもかかわらず現在、ほとんどの地域で、クマへの対応を地元猟友会に要請することが常態化している。「クマが出たときに猟友会が出動するのは当たり前だ」と思い込んでいる人も多い。その結果、クマ対応の現場には相当の軋みが起こってしまっている。


まず、繰り返しになるが、人里にきたクマは捕獲しなければいけない。仮に仕留めることのみを考えるのなら、チャンスがあればいつでも撃てるのが理想的だ。


しかし、法律上ハンター個人の判断では町中や、夜間の発砲は許されない。特定のやむを得ない状況下で、警察官の指示があって初めて発砲が認められる。先述の25年7月に起きた福島町のケースでは、深夜に警察官の命令を受けたハンターが発砲している。


25年9月からは「緊急銃猟」といって、市町村長の判断があれば市街地での猟銃使用が認められるようになった。しかし、発砲の前には周囲の安全確保、住民の避難、指定の腕章・ゼッケン等の着用、複数のハンターの確保(推奨)など、さまざまな手順が必要になる。現場の感覚から言えば、流石に悠長だと言わざるを得ない。


自治体の依頼でクマの駆除に当たったハンターが銃の所持許可を取り消される事件もあった。18年8月、北海道砂川市からの要請を受けた猟友会のハンターは、市の職員と警察署員の立ち会いのもと、ライフル銃を一発発砲してヒグマを駆除した。ところが弾道の先に建物があったなどの理由から、銃刀法違反などの疑いで書類送検され(後に不起訴処分)、最終的に銃所持の許可が取り消されてしまったのだ。


ハンターは善意でヒグマ駆除に協力しているにもかかわらず、法律上の縛りが強く、それを守ったとしても不当な処遇を受ける可能性がある。こうした環境で猟友会任せにしておくことはあまりにも酷な話である。


いま唯一救いと言えるのは、依頼されて出動したハンターがクマの反撃に遭い被害を受けるケースが出ていないことだ。じつは駆除目的の発砲における器物の損壊や人への誤射、反撃による負傷などの事故があった場合、その賠償等はハンター自身が加入する保険で賄われるのだ。自治体から依頼されているにもかかわらず、その過程で起きた不慮の事故の対応は個人が背負うという不条理な仕組みになっている。もし今、重大な事故が起き、その賠償をハンター個人が負うことになってしまったら、出動を拒否する猟友会が増えてしまいかねない。

警察内にクマ対策の人材を育成せよ


どうすれば猟友会頼みの状況を変えられるのか。私はかねて、クマが生息する北海道や本州各県の警察内で、クマ捕獲の技術をもった人材を育成するべきだと提案している。少数でかまわないので、そうした人材で対策チームをつくってクマの出没に対応していくのだ。


なぜ警察なのかと言うと、昼夜市街地を問わずクマへの発砲が法的に許容されるのは警察官だけだからだ。クマを追跡し、動きを予測したうえで発砲し仕留めるチャンスは、せいぜい5秒や10秒程度しかない。「今だ」という一瞬のタイミングを逃のがせば、駆除できずに取り逃がしてしまうのだ。だから、法律による縛りの厳しい民間のハンターに依頼するよりも、目の前のクマに集中できる警察官が対応するのが理に適っている。


ただ、当然クマ撃ちには特別な技術が必要だ。クマは木の間や物陰に隠れて自分の身を守る一方、時速40〜50㌔で走る。そうした対象を狙撃するには、止まった的を撃つのとは対極的な技術が求められる。また、急所を外し、半端な部位に命中すると「半矢」(手負い)になってしまうことがある。半矢のクマは怒り狂い、アドレナリンが噴出して痛みを感じなくなる。すると何発撃ちこんでも倒れずに襲い掛かってくる。こうした事態を防ぐには、2、3人で一斉に射撃する体制が必要だ。


このようなオペレーションを実行できるようにするため、都道府県警は訓練体制を整備するべきだと強く提言したい。訓練には一定期間の研修が必要だと考えられる。たとえば私たちのNPOは研修に全面的に協力したいと思っている。クマ対策における抜本的な改革になることは間違いない。

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