高市早苗による高市のための解散
1月19日、高市首相は衆議院解散を表明する記者会見を首相官邸で開いた。率直に言えば、会見の内容は支離滅裂だった。
現在8%の軽減税率が適用されている飲食料品について、高市首相は2年間にわたり消費税の対象とはしない意向を表明した。そして、今後設置される社会保障制度改革を議論する「国民会議」の場で〈実現に向けた検討を加速〉するという。国民会議での議論をどれだけ急いだとしても、2027年のうちに軽減税率を8%か0%に変更するのは不可能だ。早くても28年からだろう。そのとき高市氏が総理大臣を務めているかどうかはわからない。
記者会見では、給付付き税額控除についても言及があった。これについても「国民会議」で議論するそうだ。社会保障の枠組みを刷新する大きな議論は、1~2カ月で決着する話ではない。細目を詰めるのに2年は必要だろう。高市首相は〈実現に向けた検討を加速してまいります〉と言うが、決して簡単な話ではない。
その他、スパイ防止法の制定や皇室典範の改正などさまざまな政策に言及があった。それらは今まで彼女が言ってきたことと同様だ。
私がもっとも驚愕したのは、質疑応答の最後の質問への答弁だった。
〈令和8年度予算、これもがらっと新しい方針の下で編成をしています。そして、その後政府が提出しようとしている法律案、これもかなり賛否の分かれる大きなものでございます。だからこそ、国会が始まる前に国民の皆様の信を問いたい。(中略)信任を頂けたら、これは力強く進めてまいります。信任を頂けなかったら、私は責任を取ります〉(以上、カッコ内は首相官邸ウェブサイトから引用)
国論を二分するほど賛否が分かれる大きな法律案とは、いったい何を指しているのだろう。緊縮財政に反対する人はいても、高市首相が掲げる積極財政に反対する人は誰もいない。スパイ防止法の制定や皇室典範改正が、国論を二分するほどの大問題ではなかろう。会見の動画を見ても、首相官邸ウェブサイトの会見録を読み返しても、〈賛否の分かれる大きなもの〉が何を指すのか私には理解できなかった。
あの会見は要するに「細かい話は深掘りせず、とにかく私を信じてフリーハンドの委任状を与えてくれ」と懇願しているようにしか聞こえない。これでは「私を選んでほしい解散」「高市早苗の、高市早苗による、高市早苗のための解散」と揶揄されても仕方ない。
殿、ご乱心――高市首相の判断ミス
それにしても、なぜこのタイミングで衆議院解散を決断したのだろう。飲食料品の軽減税率を8%からゼロに変更するとか、給付付き税額控除を導入するという大きな政策を進めるためには、前述のように社会保障について話し合う国民会議を招集する必要がある。
この国民会議には、当然の如く公明党も立憲民主党も乗ったはずだ。つまり国民会議の場は、社会保障と税の一体改革を民主党・自民党・公明党が三党合意したときのように、事実上大連立になりうることは明らかだ。であるならば、今衆議院を解散する必要はないはずだ。
高市首相は、まだ国政選挙の審判を一度も受けていない。現在の衆議院の勢力図は、自民党が199議席、日本維新の会が34議席(合計233議席)であり、衆議院(465議席)の過半数をギリギリなんとかクリアする。参議院は自民党が101議席、日本維新の会が19議席(合計120議席)であり、参議院(248議席)の過半数を割り込む。
高市首相は現在の高支持率を笠に着て、とにかく衆議院で単独過半数を取り返したい。そしてゆくゆくは2028年の参議院選挙でも勝利したい。自分はまだ選挙による信任を受けていない。選挙で多数を握るためなら、国民会議の協議を後回ししてスキップしてもいいと判断したのだろう。
首相の座を射止めた高揚感に浸りつつ、与党内の調整と与野党協議の煩雑さに苛立ち、堪忍と忍耐力の限界に至った。そして党内にすら根回しせず、自分一人の判断で解散に踏み切った。「殿、御乱心」としか言いようがない。