• 社会

ベネズエラ・マドゥロ氏拘束が国際社会に植えつけた危険な"種"

ドンロー・ドクトリンの本当の狙い

マドゥロ拘束作戦が成功すると、トランプ大統領の言説はさらに大きく転換する。作戦成功直後に彼が開いた記者会見では、麻薬の話題がほとんど出てこなかった。代わりに出てきたキーワードが「ドンロー・ドクトリン」だ。


第5代大統領のジェームズ・モンローは「西半球(南北アメリカ)と東半球(ヨーロッパ)はお互いの問題に関与しない」という外交政策(モンロー・ドクトリン)を掲げた。「ドナルド」というファーストネームをもじり、トランプ大統領は自身の国家安全保障戦略を「ドンロー・ドクトリン」と呼ぶ。つまり「ベネズエラを含む西半球はアメリカの管轄地域」ということだ。


「アメリカは安全な国に囲まれていなければならない」。トランプ大統領が考える「安全な国」とは「反米ではない国」を意味する。反米諸国を西半球から締め出すために、マドゥロを拘束したということだ。


マドゥロ拘束以降のトランプ大統領は、ドンロー・ドクトリンと共にベネズエラの石油利権について頻繁に口にする。民主主義の回復を訴えていたかと思ったら、麻薬組織の撲滅に目標が切り替わる。さらにドンロー・ドクトリンや石油へと話題が変化する。トランプ大統領の本当の狙いは何なのか。


おそらくトランプ大統領の政策は、異なる利害や意見をもつ側近の意見を強く反映したものであり、だからこそ揺れが生じているのだろう。


マルコ・ルビオ国務長官はキューバ移民の息子であるため、ベネズエラ民主化への思いは強い。チャベスの時代もマドゥロの時代も、ベネズエラはキューバに原油を送り続けてきた。ベネズエラの産油量が落ちこんだときでさえ、原油の提供を打ち切っていない。そのおかげで、アメリカによる厳しい経済制裁が行われているにもかかわらず、キューバは革命体制を維持してこられた。見返りに、医師や教師に加えて軍人やインテリジェンス人材がベネズエラの独裁政権を支えてきた。ベネズエラが民主化すればキューバの革命体制が弱体化する可能性が高まる。


一方、国内で支持率が下がっているトランプ政権の現在の関心は、どのようにアピールすれば有権者の心に響くかだ。本年11月に控えているアメリカ中間選挙を考えたとき、どういった行動とメッセージが必要か。「ベネズエラの民主化推進を訴えても中間選挙に向けて強いアピールにはならない。それよりも石油だ」と考える側近の声に押され、トランプの関心はベネズエラの民主化から遠ざかったのではないか。


ベネズエラに進出していたアメリカの石油企業(エクソンモービルやコノコフィリップス)は、チャベス政権によって接収の憂き目に遭っている。「アメリカ企業は再びベネズエラの石油産業に入っていく」というアピールは、アメリカの共和党支持者に響くのではないか。トランプ大統領の言説がころころと変化する裏には、このようにさまざまな思惑が反映されていることが考えられる。

ハイリスクに尻込みする石油企業

1月9日、トランプ大統領はエクソンモービルやコノコフィリップスの経営陣と会談した。トランプ大統領はアメリカの石油企業にベネズエラへの進出を促したいところだが、エクソンモービルのCEOは投資に慎重な姿勢を示した。当然慎重にならざるを得ないだろう。


マドゥロを拘束して政権から排除したものの、デルシー・ロドリゲス暫定大統領をはじめチャベス派の体制はしっかり残っている。検察も裁判所も含め、すべての国家権力をチャベス派が相変わらず支配しており、投資の法的保護が担保されると信じることは困難だ。投資が法的に保護されない状態で、石油企業がベネズエラに進出して投資できるわけがない。進出したあとに再びベネズエラに接収されようものなら、株主から吊るし上げに遭うだろう。


石油産業はハイリスク・ハイリターンのビジネスだ。大きく儲かる可能性がある一方、石油が出なければ大きな損失を背負う。ナショナリズムにとりこまれてそのリスクを一国の国営石油会社が単独で行うことは危険だし、国家財政にも大きなリスクとなる。そもそも現在ベネズエラには石油産業を回復させるための投資資金がない。


アメリカ企業に限らず日本を含め多くの国の企業が進出することが、ベネズエラの石油産業の回復には必要になるだろう。「ベネズエラの石油を狙ってトランプ大統領がマドゥロを拘束した。ベネズエラの石油はベネズエラのものだ」というような単純な話に流されると、現実が見えなくなる。

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