トランプ氏が突如表明 ベネズエラの「運営」
マドゥロを拘束した後、トランプ大統領が記者会見で「We’re going to run the country」(アメリカがベネズエラを運営する)と表明したのは驚愕した。外国の国家運営に直接的に関わると突然発言したからだ。そのあとにルビオ国務長官が、ベネズエラ人によって民主化への移行プロセスが進められ、アメリカ側はその進捗状況を監視するという意味であるとトーンダウンし、実際にロドリゲス暫定大統領のもとそのように進められている。
政権を維持するためにチャベスとマドゥロは厳しい弾圧を続けてきた。自由がないうえに経済が破綻しているのだから、大半のベネズエラ人が反政府派であることは間違いない。ただし、そうした声を上げればたちまち拘束されてしまう。以前は政府に対する抗議行動に参加していた人々も、怖くて参加できなくなっている。マドゥロ拘束後も弾圧の責任者である内務大臣らが政権にそのまま残っているため、街角でマドゥロ拘束を喜ぶ素振りを見せれば、拘束されかねない。そのため街角で喜びを爆発させている人々を見ることはできないのだ。
ノーベル平和賞を受賞したマリア・コリナ・マチャドをはじめ、反体制派は過去20年以上にわたってベネズエラの民主化闘争を戦ってきた。非武装の抗議行動と集会を何百回、何千回と繰り返し、多くの仲間が投獄されたり命を落としたりしてきた。国際社会の仲裁によってチャベス派との対話も試みた。2024年には反政府派候補が大統領選で勝利したことを示す証拠を公開した。それでもベネズエラの政治体制は変わらなかった。
マドゥロ一人を排除しただけで、ベネズエラに民主主義体制が樹立されるとはとうてい思えず、アメリカによる監視を歓迎する声もある。一方で、マドゥロを拘束してくれたことには感謝するが、アメリカがこんな形でベネズエラの主権に介入することになるとはと、戸惑う市民もいる。いずれにせよ、ベネズエラの民主主義回復の道は困難を極める。
石油をはじめ諸産業が弱体化してしまった経済を、現実的にどうやって立て直すのかという課題もある。経済破綻は、食べ物や薬がなく命を落とすところまで深刻化した。
これからアメリカがベネズエラのためにどう関わるのか、現体制は倒れるのか。声を潜めて脅えながら、市民たちは不安と戸惑いの中で事態の推移を見守っている。
次の標的はキューバとニカラグアか
マドゥロ拘束によって、ベネズエラ以外に最も影響を受けるのはキューバとニカラグアだ。とくにキューバは経済的に厳しい状況にあり、石油産出国であるベネズエラによって支えられてきた。マドゥロ政権が倒れると、両国の体制が支えを失う。独裁国家であるキューバとニカラグアの現政権は弱体化し、場合によっては体制転換の可能性も出てくるだろう。「西半球に反米国家は要らない」というトランプのドンロー・ドクトリンは、おそらくキューバとニカラグアまで射程に入れていると思う。
コロンビアやブラジル、メキシコは左派政権下にあるが、彼らは相対的に公正な選挙で選ばれ、民主体制を維持しており、マドゥロ政権とは異なる。コロンビアやメキシコには麻薬の問題があるが、ベネズエラのようにアメリカが軍事行動も含めて強く対決することにはならないだろう。これら2カ国については、政権による麻薬取締りが十分でないとアメリカは批判するが、マドゥロのように政権そのものが麻薬ビジネスに手を染めているわけではない。
中国とロシアの動きはどうか。中国はベネズエラを含め南米大陸に手広く進出しているが、あくまでも経済的な権益を目的として動いているだけであって、地政学的な影響力拡大を目指しているわけではない。
ロシアから見ると、ベネズエラは経済的な権益だけでなく地政学的な意味合いも兼ね備えている。
「アメリカ大陸のすぐ近くで軍事的な協力関係をもてるチャベス政権は有用だ」という理由で、ロシアはベネズエラと軍事的な関係を深めてきた。ただしウクライナ侵攻以降は、ロシアが西半球に関わり合っている余裕はないだろう。
国連でマドゥロ拘束を非難する決議案が出されれば、中国とロシアは反対するだろう。ただしそれ以上踏みこんでマドゥロ政権や彼なき後の現体制を守るメリットは、トランプ大統領と新たな対立の種を抱えるというデメリットと比較したとき、小さいといえる。
トランプ政権によるベネズエラへの介入は、国際社会にこれからどんな影響を与えるのだろう。
「西半球はアメリカが管轄する地域だ。東半球の連中は口出しするな」という論理は、プーチン大統領がウクライナを侵攻したときの「NATO(北大西洋条約機構)が東に広がってくる。今回の特別軍事作戦はロシアの安全保障上の問題だ」というロジックと対を成す。
さらには中国が台湾に何らかの形で侵攻したときに、アメリカは「これは中国の国内問題だ」というロジックを否定できなくなってしまう。トランプが手がけたトリッキーな作戦は、国際社会に極めて危険な種を植えつけた。世界は混沌の闇に突き進もうとしている。