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【対談】トランプとキリスト教の「奇妙な蜜月」

  • 対談

イランへの軍事攻撃に踏み切ったトランプ大統領。攻撃は泥沼化し、未だ停戦への道筋は見えていない。世界に衝撃を与えたイラン攻撃の背景には、トランプ大統領とキリスト教との関係が横たわる。トランプとキリスト教の奇妙な蜜月について語った、社会学者の大澤真幸氏とキリスト教思想が専門の柳澤田実氏との対談を一部抜粋して再掲します。(潮2025年10月号より一部転載。内容は発売当時のものです)

トランプ支持者に通じる「排外主義」

柳澤 かつてのアメリカは移民を大量に受け入れてグローバリゼーションを推進してきたわけですが、その過程で見捨てられたと感じていた貧困層と中産階級の白人が中心となってアメリカ第一主義を唱えるトランプを支持しました。


トランプの岩盤支持者は、生活が困窮している要因を移民に求めているようです。こうした排外主義的な主張がアメリカだけではなく、世界各地にも広がりつつありますが、大澤先生はどのようにご覧になっていますか。


大澤 トランプ岩盤支持者は柳澤さんがおっしゃったように〝見捨てられた〟と感じていますが、これが移民のせいだというのは錯覚です。移民のほうが白人の住民よりも生活が苦しい人が多い。アメリカ自体は経済成長もしていますが、現在のグローバル資本主義の下では一部の人だけがすごく儲かるようになっているのです。いわゆる中産階級は1970年代からほとんど所得が伸びていない。だから自分たちが冷遇されているように感じているわけです。


「アメリカン・ドリーム」に向かってまじめに頑張っているのに、なんでちっとも前に進まないのか。誰かが割り込みしているんじゃないか――。そんな漠然としたフラストレーションが、移民に対して向けられているのが、アメリカの排外主義です。


柳澤 2024年の大統領選ではトランプ岩盤支持者だけではなく、イーロン・マスクなどのテクノ・リバタリアン(テクノロジーと自由至上主義を掛け合わせた思想を持つ人)が支援したことも印象的でした。テック企業の拠点、シリコンバレーは元々国籍に関係なく優秀な技術者を確保するために移民政策にも積極的で、思想文化的にはニューエイジ思想も強く、基本的には民主党支持者が多かったわけですが、それがここ8年で様変わりしたわけです。


大澤 岩盤支持者とテクノ・リバタリアンの人々に共通するのは、民主党系リベラルをよく思っていない点です。前回の大統領選では、「リベラル嫌い」の一点で連帯しました。


アメリカのリベラルは、包摂や多様性と言っているのに、貧しい岩盤支持者を救うことはなく、テクノ・リバタリアンの人々の価値観を排撃してきた。彼らからすれば民主党的なリベラルは、要は偽善的に見えるんです。


しかし注意すべきなのは、一見するとリベラルに見えるテクノ・リバタリアンも、ある意味で排他的という点です。彼ら自身、「自分たちはアメリカのなかの選ばれた人だ」と内心では考えているのではないかと思います。

トランプ現象とキリスト教の再興

柳澤 キリスト教思想の専門家としては、選民思想的な考えをテクノ・リバタリアンが持っていることはとても興味深いです。


同時に私はトランプ政権での、キリスト教保守の台頭にも注目しています。クリスチャン人口自体は減ってきているアメリカですが、福音派(プロテスタントの一派。聖書を字義通りに解釈し、その教えを忠実に守ることを重視する人々)や熱心なカトリック教徒が、第一次トランプ政権のあたりから積極的に政治に関わり始め、司法や政治の主導権を握るようになってきています。


特に、カトリックの台頭はアメリカにおいて歴史的な出来事だと思います。テクノ・リバタリアンとしても著名な起業家・投資家のピーター・ティール(PayPalやOpenAIの共同創業者)は、カトリックの思想家、ルネ・ジラールを自身の思想的基盤とみなしています。また、彼の元部下であり、福音派からカトリックに改宗したヴァンス副大統領や、ルビオ国務長官など、トランプ政権の要職にはカトリック教徒がいます。さらに、最高裁の判事9名のうち、現在6名が保守派のカトリックです。


大澤 アメリカは、もともとキリスト教の国ですからね。近年、信仰活動の熱が冷めてきたようでも、やはりどこかで深く「神」を信じています。


しかし、プロテスタントが多いアメリカで、カトリックが政権の中枢を担ったり、経済的にも影響力を持ったりするようになったこと自体、大きな転換点を迎えているのだと感じます。


柳澤 私もそう思います。ピューリタンの国・アメリカでは、カトリック教徒は後進の移民集団なので、長い間アフリカ系アメリカ人と同じ範疇のマイノリティでした。1960年代にケネディが初のカトリックの大統領となったことは快挙で、二人目はバイデン前大統領でしたが、もしこのままの流れでヴァンスが大統領になれば三人目です。近年はヒスパニック系人口が増えたことから、カトリックが数的にも大きな政治勢力になったと言われます。


大澤 キリスト教には、〝神から選ばれた人だけが救われる〟といった思想がありますが、福音派やカトリックといったキリスト教が復活していることも、排外主義の考えに影響を与えているのかもしれません。

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