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【対談】トランプとキリスト教の「奇妙な蜜月」

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いま最も懸念される終末論

柳澤 排外主義的な風潮が蔓延るなかで、私が一番懸念していることは終末論の高まりです。終末論はアメリカでは過去にも繰り返し流行していますが、トランプ第二次政権下で再びその波が高まっているように見えます。この動きには不穏さと良い兆候の両方を感じるのが正直なところです。先述のピーター・ティールも終末の危機感を訴えながら、不毛な競争社会を脱し、隣人愛と技術革新が両立する社会を築くべきだと訴えています。彼と親しいヴァンス副大統領も、ティールのそうした思想を共有しているはずです。


ティールの影響もあり、シリコンバレーでは、一部キリスト教が復活してきています。その拠点となっているのはティールのビジネス・パートナーのCEOたちが活動しているサンフランシスコの教会です。私は春に実際にその教会に行って副牧師に話を聞いてきましたが、ビリオネア(億万長者)と貧しい技術者が一緒に信仰共同体を形成していて、とても真摯で明るい教会です。


ただし、教会ではあからさまな終末論は語られないものの、ティールと国防軍備会社を経営しているCEOは自宅にシェルターや、サバイバルキットを備えていることを公言していて、危機的な状況が近いという意識が見え隠れして、少し怖い感じはあります。


また教会の勉強会でも、同じCEOはこのようなことを語っていました。「暴力を避けたくても戦わなければならないときはある。その際には犠牲者を最少にするために、素早く勝たなければならない。ゆえにイスラエルやロシアがやっていることは最悪である」と。


大澤 確かに終末論は繰り返されているけれど、トランプ現象におけるそれは一味違うのではないでしょうか。これまでの終末論は、破壊的な闘争のあとにやってくるユートピアが重要ですが、トランプ現象のそれは破滅や世界の否定のほうに重点がある。

象徴的なのはピーター・ティールが環境活動家のグレタ・トゥーンベリを「アンチキリスト」扱いしていることです。もともとテック系の人たちは気候変動問題に関心があって、警告を発する立場でした。グレタと共闘できたわけです。 ところが、グレタは将来世代が生き残ることを目的としている。一方でピーター・ティールは破滅を前提に考えている。だから、キリスト教における最大の悪口である「反キリスト」という言葉をグレタに投げかけるわけです。

「反キリスト」とリベラル嫌い

大澤 かつてのアメリカの千年王国論(終末の前にキリストが再臨し、1000年間治めるとする思想)にはまだリアリティがありました。分かりやすいのは東西冷戦です。至るところに共産主義の脅威があるというのは、まさにアメリカ的世界観ですよね。


柳澤 それはアメリカの最も得意とする陰謀論ですね。


大澤 国際社会は「ちょっと行き過ぎではないか……」と思いつつ、皆がアメリカに合わせるわけです。その構造はいまも同じで、皆がおかしいと思いながらトランプの政策に合わせている。


柳澤 ピーター・ティールにも反共思想があり、それが彼のリベラル嫌いと結びついています。確かにティールはここ数年、熱心に「反キリスト」という言葉を使っていますね。反キリストの概念は、一見すると平和的でキリストのように振る舞う人が、実は最大のキリストの敵であるということを意味します。反キリストは終末が近づいているときに出現します。


ティールには、本気でグレタを反キリストだと思っている部分と、今をリベラルサイドを本格的に切り崩す好機と捉えて、終末論によってアメリカ人をリベラル嫌いに誘導しようとしている部分の両方があるように思います。


大澤 トランプは、多くの人がイメージする熱心なクリスチャン像からは最も遠い存在です。普通に考えれば彼ほど冒涜的な人はいない。ところが、その彼が信仰の篤いクリスチャンから支持されて、熱心な信仰者だともされる。奇妙な「対立物の一致」です。

コミットメントを求める人々の声

柳澤 これは私の研究テーマでもあるのですが、世界的な右派の台頭の原因として、人々が〝コミットメント〟(参加・献身)を求めていることが大きいのではないかと考えています。合理主義や多様性、グローバリゼーションといったリベラルサイドの方針は、基本的に選択肢を増やして個々の関わりを薄くするものだったと思います。そのような方針に抑圧されていた「自分にはこれしかない」と思いたい欲求が吹き出しているのではないかと。


大澤 付け足すと、リベラルサイドとトランプは、対立しているようでいて、通底するものがある。リベラルがいう寛容というのは、何事にもコミットせず、何事も絶対化しないということです。つまりすべてを相対化する。この態度を徹底させるとどうなるか。どんな道徳をも冒涜し、どんな人間関係もディール(取引)だと見なすシニカルな人物が導かれる。そう、トランプです。


リベラルはトランプを嫌悪し、自分たちとは真逆だと思っているかもしれませんが、トランプに自分自身の真実の姿を見るべきだというのが、僕の考えです。


リベラルサイドにはもうひとつ逆説がある。彼らの信じる多様性を受け入れられない人を排除し、「キャンセル」する。いわゆるウォーキズム(社会問題に対して過剰に意識が高いことや人)です。寛容を主張している人が、最も不寛容になってしまうのです。


繰り返しますが、トランプはもちろんのこと、イーロン・マスクやピーター・ティールらは、間違いなくリベラルの流れが生み出したものです。

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