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今を新たな草創期と位置づけて 鈴木美華・創価大学学長
目標から逆算して、今日はどこまで勉強するのかを決めた。夜中、何時になってもそれが終わるまでは寝ない。
「眠くなると先生の本を読みました。感動し、やる気が出て眠気が消えるんです」
勉強だけでなく祈る時間も自分で決めた。祈りと勉強、そして大学の授業への出席。これを弛まず繰り返す日々を送った。
そのころ、支えになったのは"勝つことも大切であるが、決して負けない自分をつくることだ"という先生の指導だったそうだ。
「つらくなったときは、"今日一日だけはがんばろう"と、一日、一日を積み重ねていきました」
両親は、娘が勉強に専念できるように、仕送りを続けてくれたという。
大学を卒業した次の年に鈴木さんは司法試験の合格を勝ち取った。
母に「受かると思ってた?」と聞くと、「当たり前でしょ」と満面の笑みを見せた。母は娘の無限の可能性を疑うことはなかったのだ。
司法試験に合格したとき、池田先生に報告できる機会を得て、初めて間近でお会いできた。
「"全部わかっているよ"との先生の言葉を聞きながら涙が止まらなくなって、1時間くらい泣き続けていました」
教育は未来に種を蒔く仕事
鈴木さんは日本の弁護士事務所で6年間働き、次のステップを踏み出すためにアメリカ・インディアナ大学大学院に留学した。卒業後、ニューヨーク州の弁護士資格を取得し、ニューヨークで1年働いて、日本に戻った。
「それが1999年でした。ニューヨークに本社がある弁護士事務所の東京オフィスから声がかかり、そこで働きました」
そうして2010年に、創価大学から法科大学院の実務家教員として来てほしいという要請を受けたのだ。
「再び実務に戻るつもりで、6年だけということで引き受けました」
法科大学院では、一方的に教えるのではなく学生との議論や対話を重視する「ソクラテスメソッド」を基本に授業を進めていった。
「学生たちは自分で考えることで、より深い学びが得られると思うからです」
約束の6年がきたとき、鈴木さんは当初の思いとは違う決断をした。
「教育に携わるうちに、自分が実務の最前線で働けるのはせいぜいあと15年くらいだと考えました。教育は未来に種を蒔く仕事です。学生たちを法曹界に送り出すことのほうが意義があると思ったのです」
鈴木さんは大学に残ったのだ。その後、法学部の教授になり、法学部長、副学長を歴任し、今年学長になったのだった。
「私は、学生たちに大学時代に人間としての"核"を培ってもらいたいと思うんです。何があってもがんばれる "原点"と言っていいかもしれません。それを構築するためにも創立者の思想・哲学を学んでほしいんです」
意識的に創立者の思想・哲学を学ぶこと
鈴木さんは、創立100年を目指して、今を新たな草創期だと位置づける。
「池田先生が亡くなられ、先生ご不在の時代がこの先ずっと続きます。だからこそ教員も学生も自ら意識的に"建学の精神"を学んでいかなければいけないと思うんです」
また、「学生第一」と「世界市民の育成」の2つは大きな指針だ、と話す。
「学生たちは自主的にこんな大学にしていきたいと考えてくれています。これは本学の大きな特長だと思います」
現在、学術交流協定を結んでいる海外の大学は、70か国・地域、272大学になったという。
「学内にはさまざまな国から来た学生がいますし、障がいを抱えている方もいます。日常の中で自然に互いの違いを認め、尊重し合っていける環境は、本学が目指す世界市民育成にとって非常に意味のあることだと思います」
鈴木さんは、こうした創価大学の特長や魅力をもっと伝えていくこと、高校生たちがここで学びたいと思える大学にしていくことが、自分の仕事だと考えているそうだ。学長の任期の間に、学生のために大学の改革を推し進めたいと意気込む。
最後に、学生たちと接するときに心がけていることを聞くと、即座に、「一個の人格として尊重すること、決して決めつけないことです。どの学生もどんな可能性を秘めているかわかりませんから」
という答えが返ってきた。
