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"右の霧の中"に消えた自民党――高まる公明党の存在感
自民党の負の側面を背負った公明党
自民党の裏ガネ問題が噴出したのは、2023年11月のことだ。岸田文雄首相は西村康稔・経済産業大臣や萩生田光一・自民党政調会長、高木毅・自民党国会対策委員長、世耕弘成・自民党参議院幹事長、さらに裏ガネに手を染めた大臣や副大臣を一斉に解任する。
他方で公明党は、まったく関係がないにもかかわらず、連立政権のパートナーであるという理由で自民党の負の側面を背負う形となった。
衆議院総選挙(24年10月)、参議院選挙(25年7月)において、公明党の選挙区候補者は次々と落選に追いこまれ、比例区の当選者も減らしたのだ。
東京都議会議員選挙(25年6月)では、大田区(2名)、新宿区(1名)で計3名の候補が落選している。都議選の歴史上、公明党の候補が落選したのは実に36年ぶりだ。
三つの選挙で苦杯をなめた理由は、自民党の裏ガネ問題にほかならない。異様な物価高、エネルギー高が続くなか、国民はカネの話題に敏感だ。政治資金パーティーで得たカネを裏ガネとして処理し、自分のポケットにコッソリ隠していたと言わざるを得ない。それを、国民は今もまったく許していない。
24年の国会論戦を通じて、政治資金パーティー券購入者の公開基準を「20万円超」から「5万円超」まで引き下げることが決まった。改正版・政治資金規正法は26年1月から施行される。裏ガネ作りをチェックする肝は第三者機関設置なのだが、どのような形で第三者機関を運用するのか、詳細は煮詰まっていない。改正法施行が目の前に迫っているのに、自民党は議論をウヤムヤにしたまま放置してきた。この点は石破茂前首相にも責任はあると言わなければならないだろう。
右方向の霧の彼方へ 高市氏の感覚の乖離
前述のように、高市早苗氏は「裏ガネ問題は決着している」という認識の持ち主だ。裏ガネ作りの有無を徹底的にチェックする第三者機関を作り、膿を出し切る意思は、裏ガネ議員の登用を進める氏にはない。企業・団体献金を受け取れる対象を政党本部と都道府県単位の組織に限定するという規制強化についても、高市氏は後ろ向きだ。
連立離脱を伝える記者会見の場で、公明党の斉藤鉄夫代表は「自民党はいつも『検討する、検討する、検討する』と言って話が先に進まない」と痛烈に指弾した。「自民党の不祥事を説明することに限界が来ている」とも指摘している。
10月10日の連立協議の席上、公明党の訴えについて高市氏が「党内手続きがあるので持ち帰る」と答えたのは、状況の深刻さを理解していないことの表れだ。高市氏は自民党総裁なのだから、その場で思いきった政治決断を下すべきだった。
「党に持ち帰る」と言ってしまえば、「党の反対にあってできなかった」と返答するであろうととられても仕方がない。公明党がここまで企業・団体献金規制に関して強く賛成すれば、もはや国会で通るかもしれないと覚悟すべきだったのだ。その場で大胆に決断し、前向きな考えを斉藤鉄夫代表に直接伝えるべきだった。
事程左様に、高市氏は公明党議員と支持者の苛立ちを理解していない。政治資金に対する世論の感覚とも、あまりにも乖離している。彼女の目には、公明党の姿も国民の姿も映っていないのだろう。伴走してくれる人がいるのに、高市氏は自分一人だけで「右方向の霧の彼方」へ走り去っていってしまった。
公明党を中心に五党協議を始めよ
10月21日の首相指名選挙で、高市早苗氏が首相に選ばれた。公明党は斉藤鉄夫代表に投票している。いずれにせよ、高市政権に公明党は参画しない。野党に転じて閣外協力もしない公明党は、これから国政においてどんな仕事をするべきだろうか。
今こそ公明党が旗振り役となって、五党協議の場を設置するべきだと私は思う。自民党・公明党・立憲民主党・国民民主党・日本維新の会の五党が一つのテーブルにつくのだ。高市政権の右旋回を食い止め、同時に最大野党である立憲民主党を左旋回させず中道に引き寄せる。与野党が右バネや左バネに振れることを防ぎつつ、政治改革を前に進めるため各党に協議を呼びかけるのだ。
参政党やNHK党にまで秋波を送るほど浮き足だった高市政権は、早晩行き詰まるだろう。そのときを見越して、五党協議という対話のテーブルを今から準備するのだ。こうした役回りは、与党経験が豊富でありながら野党の立場をとる公明党だからこそ、務めることができると思う。
民主党政権末期の2012年6月、民主党・自民党・公明党は三党合意(社会保障と税の一体改革)を妥結した。5%から8%、10%への消費増税を進めるとともに、年金・介護・子育てを充実させる大きな政策だ。
あのときと同じように、これから五党協議を進めてほしい。石破政権の間の与野党協議は、国会を通過する法案ごとの協議に過ぎず、テーマも小さく、短期的な視野しかもたない議論ばかりだった。
少子高齢化が進み、経済の先行きも見えない日本では、社会保障、安全保障、財政といった大括りのテーマで長期的な視野で与野党が議論する場がどうしても必要だ。いまこそ公明党のイニシアチブが光るときではないだろうか。
安定のカギを握る中道政党・公明党
衆議院議員の任期は4年だ。首相が衆議院を解散しなければ、最長で2028年10月まであと3年任期が続く。いつ衆議院総選挙があるにせよ、多党化の流れはすぐには収斂しない。公明党の選挙協力がまったくなければ、かなりの数の自民党議員が確実に落選する。
こうした混迷の時代だからこそ、中道政党としての公明党の真骨頂が発揮される。かえすがえすも公明党の連立政権離脱は、青天の霹靂としか言いようがないとてつもないインパクトを日本政治に与えた。日本政治を後退へ向かわせず、政治空白を生まないためのカギは公明党の動向だ。リップサービスでも何でもなく、公明党の役割がいまほど重要なときは歴史上ない。
公明党のリーダー、そして支持母体である創価学会のリーダーの判断が、これからの日本政治の帰趨を決する。
