核廃絶を目指すことはお花畑なのか? 一般社団法人かたわら代表理事・核廃絶ネゴシエーターの高橋悠太氏が、中高生たちと関わるなかで見つけた平和運動の新しいナラティブとは。
(月刊『潮』2026年4月号より一部転載)
衝撃を受けた中高生の平和認識
一般社団法人「かたわら」では、全国の教育現場で核軍縮や平和の在り方を考えるワークショップを行っています。これまでに1400人以上の中高生が受講してきましたが、この活動を始めるきっかけとなった、忘れられない出来事があります。
一昨年、京都のある中学校で講演をした時のことです。全校生徒を前に、私はいつものように「核兵器はなくすべきだ」と熱を込めて語りました。
ところが、その瞬間に、それまでガヤガヤと賑やかだった体育館が、しーんと静まり返ってしまったのです。それは深い感銘による静寂ではなく、あきらかな「白け」でした。
「このお兄さん、何をきれいごと言っているの?」
生徒たちのそんな冷ひややかな視線を肌で感じました。
彼らのアンケートへの回答を読んでみると、そこには「中国や北朝鮮が怖い」「なめられたら終わりだ」といった、切実な不安と、強い不信感に基づく言葉が並んでいました。
私は衝撃を受けました。核兵器廃絶の思いが、今の十代の若者たちのリアリティには、全く届いていなかったのです。中高生と自分自身の「認識のギャップ」を埋めない限り、どれだけ平和を叫んでも、次世代を置き去りにしてしまう。そう痛感したことが、現在の教育プログラムの原点となったのです。
そこで開発したのが、単に答えを教えるのではなく、生徒自身に「複雑な問い」の当事者になってもらうワークショップです。
例えば、生徒たちに「核保有国の外交官」という役割を演じてもらいます。テーマは、「対立する国との信頼関係を作りつつ、軍縮を進めるためには具体的にどうすればいいか」。すると、生徒たちの議論は一気に熱を帯びます。
ワークショップでは、冷戦中に米ソ両国が、軍縮に向けて外交のホットラインを作ってきたことや、信頼関係を構築して核兵器を削減してきた事実、互いの核軍縮状況をチェックし合う「相互査察」などの過去の実績を紹介しています。
そうすることで、先人たちが危機を乗り越えるために、常に新しい取り組みを行ってきたことを知ることができます。そして、現在の核軍縮の条約や非核三原則といった方針などが、古い価値観ではなく、人々が編み出してきた知恵、プロセスであることに目を向けてもらうのです。

平和・軍縮教育「タイムトラベラープログラム」の様子(写真は著者提供)
また、このプログラムで生徒たちの意識に重要な変化が見られました。終了後には難しい問題を考えることはおもしろいと思う生徒が現れてきたことです。
終了後のアンケートでは、「核兵器をなくす当事者の話が聞けたのがおもしろかった」「他の国同士が威圧的な関係をなくすことで、対等な関係が生まれて戦争をする必要がなくなり、核兵器や他の兵器も無くなって、日本は核の呪縛から抜け出せると思った」といった、本質を突くような意見などが出てきました。考えることにちゃんと向き合う姿勢がみられるようになったことは大切な成果だと思っています。
「平和の構築」は創造的な挑戦
現代の日本の若者たちの意識は、かつての平和教育が想定していたものとは大きく異なっています。
彼らはインターネットを通じて、世界の紛争や不都合な現実をリアルタイムで見ています。そのため、「戦争は悲惨だ」「核は怖い」という感情に訴えるだけのアプローチには、むしろ冷笑的な反応を示すことさえあります。
私たちが注意深く見守るべきなのは、一部の若者たちが既存の「平和運動」を「古くて非効率なもの」と感じ、そのカウンターとして、より強硬な力(軍事力)を称揚する政治家に「新しさ」や「格好良さ」を感じているという現状です。
もし、私たちが「これまでの平和の枠組みを守れ」と言うだけなら、彼らにとって私たちは「守旧派」に見えるでしょう。
しかし、本当は違います。平和を構築することは、常に創造的な挑戦でした。
例えば、神戸市の「非核神戸方式」という実践があります。これは1975年以降、米軍艦船の入港に際して「非核証明」を求めることで、結果として半世紀近くも核の持ち込みを阻止し続けてきたリスクマネジメントの実践です。
こうした具体的な成功事例を「平和を作るための高度なマネジメント手法」として提示すれば、若者たちの反応は変わります。
平和は単なる「不戦」の状態ではなく、絶え間ないリスクの管理と、信頼構築の細やかな努力の結果である。こうした論理的な語りこそが、今の若い世代に届く「新しい平和のナラティブ(語り口)」になると確信しています。
平和を「守るもの」という受動的な対象から、自らの知恵で「作り上げていくもの」という能動的な対象へと変換する。これこそが、今、平和運動に求められている新しいナラティブではないでしょうか。そういう思いで、ワークショップを行っています。