• 社会

核兵器廃絶なんてお花畑? 理想と現実の隙間を埋める若者たちの挑戦

核兵器禁止条約(TPNW)が示す核保有国の責務

2021年1月に発効した核兵器禁止条約(TPNW)は、核軍縮をめぐる膠着した状況に一石を投じました。日本国内では「保有国が入っていない」「日米安保との整合性が取れない」といった否定的な声も根強いですが、私はこの条約が持つ「議論を動かす力」に注目しています。


特に、第三回締約国会議以降の議論で重要視されているのが、核保有国に対する「立証責任」の問いかけです。「あなたたちが維持している核抑止という政策は、本当に人類の安全に寄与しているのか? 一度でも誤射や事故があれば世界を終わらせるリスクを抱えながら、それを『安全保障』と呼べる根拠は何なのか?」。この説明責任を核保有国側、あるいは核に依存する側に課そうというアプローチです。


日本がこの条約に関わっていくことは、日米同盟を即座に破棄することではありません。むしろ、アメリカとの対話において「もう一つのオプション(選択肢)」をテーブルに載せるということです。TPNWの理念を理解し、その枠組みにオブザーバーとしてでも参加することは、日本の外交の自由度を広げ、多角的な安全保障を構築するための賢明な針路なのです。

  • 核兵器廃絶の活動に取り組む「かたわら」のメンバー

「力による安全保障」か「質の高い外交」か

厳しい情勢下の北東アジアにおいて、日本がとるべき具体的な針路として、私は「協調的安全保障」への転換を提唱します。

「協調的安全保障」とは、相手を排除したり屈服させたりすることで自国の安全を守る(力による安全保障)のではなく、共通の課題に対してルールや枠組みを作り、互いの安全を確保し合うという考え方です。


例えば、中国やロシア、北朝鮮といった国々の政権は確かに強権的で、時として国際法を軽視する行動をとります。


しかし、だからといって「対話が不可能な相手だ」というレッテルを貼ってしまうのは早計です。歴史を見れば、どれほど激しく対立した国同士であっても、自国が破滅することを避けるための「最低限の合意」は作り得ます。


かつての中国が呼びかけた北朝鮮の非核化を目指す六カ国協議の再建や、地域のリスクを管理するための常設の枠組み(アジア版のOSCEなど)を目指す努力を、日本こそが主導すべきです。


また、日本は「ミドルパワー(中堅国家)」としてのアイデンティティを再定義する必要があります。アメリカや中国といった大国のパワーゲームに翻弄されるのではなく、同じような危機感を持つカナダ、ドイツ、オーストリア、そしてグローバルサウスの国々と連帯することです。


特に、グローバルサウスの国々との関係において、日本はこれまで「ODAを通じた資金援助」という側面が強すぎました。しかし、今の時代、お金を配るだけでは信頼は得られません。


彼らが抱えている「植民地支配の歴史」や「経済的な搾取構造」への共感を示し、共により公正な経済への移行や国際秩序を作ろうという姿勢を示すこと。こうした「質の高い外交」こそが、日本の味方を増やし、結果として軍事力に頼らない抑止力を形成することにつながります。むしろ、核保有の道は、そうした信頼関係を破壊するのです。

「平和の連帯」を若い世代に広げたい

私は、国際社会の動向、特に国連での動きにも深く関わってきました。2024年、国連の全加盟国の合意によって「未来のための協定」が採択されました。その中で核兵器廃絶や「若者の平和参画」が重要な柱として位置づけられています。


私が注力している「ピース・サークル」という国連のイニシアティブ(取り組み)は、世界中の若者たちが平和について対話し、その声を直接国連事務総長に届けるというものです。横浜市や広島・長崎・京都の高校などで開催しています。


国連やその事務局が加盟国に対して影響力を発揮するためには、その後ろ盾となる「世界の市民社会の声」が不可欠です。その声を集めることで、国連を再建したいと思っています。


特に、これから何十年もこの地球で生きていく権利のある若い世代が、「私たちは核兵器のない世界、力ではなく対話に基づく秩序を求めている」とはっきりと表明すること。その声が集積され、可視化されることが、国際政治を動かす最も強力なエンジンになります。


市民の対話は、時に国家間の外交よりも速く、深く、人々の心と世界を繋ぐことができるのです。若い世代から、こうした平和を構築する連帯を広げる時です。まずは、日本の若者と共に、核兵器廃絶の新しいナラティブを創出していきたいと思います。

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