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「核廃絶」に向けての 10 問 10 答 ――青年世代の使命と責任

2024年3月に実施された未来アクションフェスに実行委員として携わった高橋悠太さんは、核廃絶に向けての取り組みをおこなっている。日本周辺の安全保障環境が緊迫する昨今、若者世代でも「核保有をすべき」という声は一定数を占めている。核兵器をなくすことは理想論なのか。核廃絶運動の"旗手"に疑問をぶつけた。

(月刊『潮』2024年8月号より転載)

Q1.若い世代の一部は「核兵器は自分たちには無縁なもの」と感じています。私たちにとって、核兵器は本当に無縁でしょうか?

高橋 広島・長崎への原爆投下から今年で79年です。被爆者の平均年齢は85.01歳に達し、被爆者健康手帳をもつ人数は11万3649人です(前年比5286人減/2023年3月末、厚生労働省による)。被爆の体験を直接語ることができる被爆者が少なくなる中、遠く感じる気持ちはわかります。ただ、私たちは、皆が等しく核の時代の当事者です。


世界には1万2120発もの核弾頭が存在しています(2024年6月現在、RECNA=長崎大学核兵器廃絶研究センターによる)。一発の威力が広島・長崎型原爆の数十倍から数百倍に及ぶものもあります。そして、ロシアは国連憲章を破ってウクライナに侵攻し、核兵器で脅しているのです。


一方、一般社団法人かたわらで、高校生約100人を対象に核兵器についてのワークショップを実施した際、事前アンケートを行いました。すると、53.3%が「核兵器は防衛の役に立っている」と回答し、別の設問では18.7%が「日本も核兵器を持つべき」と回答しました。ただ実際に話をすると、ほとんどの生徒は核抑止論が何かもよくわからないとの反応でした。核兵器という言葉が独り歩きしている側面もあります。

Q2.もし核戦争が起きた場合、私たちの生活にどのような影響がありますか?

高橋 IPPNW(核戦争防止国際医師会議)が2022年に発表したレポートによると、インドとパキスタンが全面戦争で「核の応酬」になり、約500発の核兵器(100キロトン級)が使用されれば、1億6400万人が被爆して死亡し、平均気温が1.3度も低下し、その後2年間で約25億人が飢餓により死亡すると試算されています。(どちらかが核兵器を一発でも撃った場合、核による報復攻撃が起きるため)


まず人体への影響を広島の原爆被害から考えてみましょう。爆心地から500m以内にいた約90%が即死しました。被爆直後から第2週にかけては、やけどや体液を失うことによるショック死。第3~8週に、脱毛や皮下出血などの症状が現れ、造血機能不全やばい菌の感染で死亡。それを生き延びた人々もその後、がんや白血病に苦しんでいます。(『広島のおばあちゃん』鎌田七男著)


次に、核兵器が爆発すると、地上のものが粉々に砕かれ、大気中に大量の粉塵が舞い上がります。粉塵まみれの煙と雲が地球上を覆い、太陽光が差しこまず気温が低下します(さらに先述の印パのシミュレーションでは、オゾン層の25%が劣化)。食物が育たなくなり食料の買い占めと食料輸出の停止が起こり、公共インフラの混乱と未曾有の大量飢餓につながります。食料自給率38%で、多くの食料品を海外からの輸入に頼る日本は、真っ先に影響を被るでしょう。地球上のどこで核戦争が起きても、私たちはその被害から逃れることはできません。

Q3.現在は、1980年代の核弾頭数(約7万発)よりかなり減っています。核兵器をめぐる状況は、改善しているのでしょうか?

高橋 前出のRECNAの調査では、核兵器全体のうち、発射ボタンを押せばすぐに使える「現役核弾頭数」は逆に増えています。


現在、現役核弾頭数は9583発で、2018年と比較して332発(約3.6%)増加。私たちの団体は市民社会の一員として、G7に対し、昨年の広島サミットを生かして、今年も核軍縮を議題の一つとするよう働きかけてきました。


6月にイタリアで開催されたG7の首脳宣言は、「冷戦後の世界の核兵器の減少傾向は維持されなければならない」としていますが、現実に世界は核軍拡の時代に突入しています。


さらに、米国は30年間で100兆円の予算をかけ、60年代に造られたB61という種類の核弾頭に、爆発の威力を段階的に調節できる機能や誘導装置などを付け、ピンポイントで標的を破壊することを可能にしました。各国は核兵器を使いやすくしようとしています。

Q4.「核兵器があるおかげで大国同士の戦争は起きていない」という意見もあります。核抑止力は実際に効果がありますか?

高橋 私はその考え方には賛同しません。主に二つ、異議があります。


第一に、核兵器が通常兵器の戦争を抑止する力にはなりません。82年に起きたフォークランド紛争では、非核兵器国アルゼンチンが核保有国イギリス領フォークランド諸島に武力侵攻しました。国際法の専門家は、核兵器は万能ではないと指摘します。


第二に、核兵器による事故が世界で何度も起きています。アメリカが認めているだけで少なくとも約50回。62年のキューバ危機ではシステムエラーで沖縄の米軍基地から、核兵器が発射寸前になり、現場の指揮官の優れた判断で奇跡的に回避されました。核抑止力のおかげで、核戦争を回避できているわけではありません。また、事故やミスをきっかけに核戦争が勃発しかねません。

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