地震や洪水など自然災害がそのリスクを高める今、国民の防災意識がかつてないほどに高まっています。
そこで、公明党の女性防災会議議長を務める佐々木さやかさんに、防災知識と公明党の取り組みについて聞きました。
(月刊『パンプキン』2024年11月号より転載。取材・文=長野 修 写真=箱崎慎一)
Q1.近年、豪雨被害が激甚化していますが、対策はありますか
A.線状降水帯の「半日前予測」などで、適確な防災対策が可能になりました
近年の豪雨被害の特徴として、線状降水帯による被害の激甚化が挙げられます。前線などの影響で、積乱雲がほぼ同じ地域に次々と連なって発生するため、大雨が同一地域で長時間降り続き、河川の氾濫や土砂崩れなどの被害をもたらします。
公明党は、これまで「国土強靭化基本計画」の中に、線状降水帯の予測精度の向上を強力に推進する施策を盛り込み、リードしてきました。そのかいあって、現在は、スーパーコンピューターを使って、線状降水帯がいつごろ、どの地域に発生するかを、12~6時間前に予測できるようになりました。この気象庁の「半日前予測」によって、より的確な防災対策が可能となりました。
これまでは、全国11ブロックの地方単位で予測を行ってきましたが、各自治体がより的確な防災対策をするためには、さらに細分化した予測が必要です。こうしたことを踏まえ、今年の5月からは、都道府県単位で予測が可能となりました。2029年からは、さらに市区町村単位まで細分化して発表される予定となっています。
また、豪雨で心配されるのが川の氾濫です。氾濫前に避難ができるように、国土交通省は洪水時に特化した「水位計」の設置を2018年から全国各地で進めています。身近な河川の水位を監視する体制を強化して、素早い避難を後押しします。
また、公明党は、東京と埼玉を流れる荒川の洪水リスクを軽減してきました。荒川第一調節池(埼玉県)内にある荒川貯水池は、渇水時に補給する役割を担っているのですが、大雨が降ることが予測されたときには事前放流することで洪水対策ができます。従来は、300万立方メートルを洪水時に調節できるようになっていましたが、公明党の岡本三成衆議院議員が国会質問で提案したことによって、2021年、新たに追加で最大259万立方メートルの水を事前放流できるようになりました。これは東京ドーム約4.5杯分に相当する水の量。荒川の上流域で大雨が降ると予想されると、ポンプを使って事前放流します。雨量が増えている近年の洪水対策として有効な方法だと考えられます。
さらに、公明党の提案で「気象防災アドバイザー」をすべての都道府県に1人以上設置することとなりました。これは気象庁から委託された気象庁OBなどが、自治体に対してより具体的な災害対策の助言を行うものです。専門家が、それぞれの地域の状況に合った降雨量の予測や災害リスクなどを自治体に助言することで、より的確な対応ができるようになると思います。
Q2.避難所になっている学校は、耐震化されていますか
A.公立小中学校の耐震化率は、2023年には99.8%となっており、安全です
自宅の倒壊や浸水、崖崩れなどの危険性がない場合には、在宅避難が精神的にも安心です。そのためには、家の耐震化や備蓄品の確保などを日ごろから進めておきましょう。しかし、もし浸水や崖崩れなどの危険性が高い場合は、速やかに避難所に避難しましょう。
避難先として多いのが公立の小中学校。ここの耐震化が十分でなければ、避難先で安心することはできません。だからこそ公明党は、連立政権に参画して以来、公立小中学校の耐震化を着実に進めてきました。具体的にいえば、耐震化のための予算確保と共に自治体の財政負担を大幅に減らす法改正を実現。その結果、2002年にはわずか44.5%だった公立小中学校の耐震化率は、23年には99.8%となり、ほぼすべての公立小中学校が安全な避難所となっています。
また、近年の夏の暑さは異常です。この状況下でエアコンがないと避難者は大変過酷な環境に身を置くことになります。そうしたことを鑑み、公明党は公立小中学校へのエアコン設置を全国で推進し、普通教室の設置率は、2022年9月時点で95.7%となりました。体育館については、数年前から全国各地で設置を進めています。
また、公明党の訴えによって、2021年から全国の高速道路など高台にある道路上の避難場所を新たに655か所整備する方針となりました。これは、東日本大震災で釜石市や宮古市の住民が国道45号に駆け上がり、津波から逃れたという教訓があったから。住民が登るための階段やスロープを設置しながら、25年度末までの完成を目指しています。
現在、日本全国でインフラの老朽化が進んでいますが、公明党は昔から「防災減災ニューディール」など、
インフラ整備を進めてきました。それは今も続いていて、毎年予算を発行しながら必要な耐震化を進めています。
Q3.女性や子どもが安心して過ごせる避難所にするには、どうしたらいいですか
A.各地の「地方防災会議」などに女性が参画することが重要です
現在私が議長を務める公明党の「女性防災会議」が設置されたのは、東日本大震災がきっかけでした。あのとき、被災地は悲惨な状況で、女性にとっては、着替えるスペースがない、女性用品が手元に届とどかない、性暴力など、問題が山積みだったので、避難所運営には女性の視点が絶対に欠かせないということでつくられました。それ以降、私たち公明党は長年、女性が安心して過ごせる避難所実現のために力を尽くしてきました。
最大の課題は、避難所を設置・運営する側に女性がいないことです。各地域には、いざ災害が起きたときに地域の実情に合わせた対応ができるように作成された基本計画「地域防災計画」があるのですが、これを作成する「地方防災会議」にまったく女性が入っていないという自治体が非常に多かったのです。
そこで公明党は、長年、この地方防災会議における女性の割合を増やす取り組みを進めてきました。その結果、都道府県防災会議では女性がいない地域はゼロになりました。女性委員の割合も東日本大震災発生時の2011年の3.6%から、20年には16.1%へと、4倍超に増加しました。女性委員の割合が10%以上の自治体では、生理用品、乳幼児用品、介護用品の備蓄割合が多くなっています。最近は、危機管理担当部局に女性を登用することを進めています。
また、避難所運営の現場においても、女性の参画を進めてきました。実際に運営するのは、男性が多いのが実情ですが、役員の少なくとも3割以上を女性にすることを目標に進めています。
内閣府は、避難所運営について非常に充実したガイドラインを出しています。そこには以下のようなことが掲げられています。男女別の更衣室や休憩スペース、乳幼児のいる家庭用のエリア、キッズスペースなどを設ける。生理用品や下着などは女性から配布するなどです。
こうした方針を現場でどう実現していくかということが課題です。そのときに大事なことは、防災訓練。子ども連れのお母さんやお父さんも参加して、自分たちの意見を反映させてほしいです。
また、能登半島地震では、輪島市や珠洲市をはじめとする6市6町の避難所や街頭に防犯カメラ1006台を設置することができました。これは、公明党が国に対して被災地の防犯対策強化を要請したことがきっかけでした。他にも、竹谷とし子参議院議員と地方議員で必要な支援や情報が提供できる女性のための相談支援拠点づくりも進めました。
また、水や加熱機器が不足している避難所では、乳児用粉ミルクを調乳するのは困難です。そこで注目したのは、常温保存できる「液体ミルク」。公明党がリードして液体ミルクが国内製造できるようになったことは、周知の事実です。
Q4.災害で帰宅できなくなったらどうしたらいいですか
A.まずは職場で待機。帰宅途中なら「災害時帰宅支援ステーション」等を利用
東日本大震災のときには、東京などで多くの帰宅困難者が生まれました。
職場から自宅まで一晩かけて歩いて帰る人も多かったのですが、そこには交通機関の混乱、けがや事故、事件などの二次災害のリスクも潜んでいます。そうしたことを受けて今は、無理して帰らずに、ひとまず職場で待機することが望ましいとされています。したがって、企業に対しては、3日分の食料備蓄品を用意するように意識啓発が行われています。
また、帰宅途中に被災した場合に備えて、「災害時帰宅支援ステーション」の設置が各都道府県で定められています。コンビニやファミレス、ガソリンスタンドなどさまざまな施設がありますが、そこでは、水やトイレ、一時的な休憩所の提供、道路や災害に関する情報提供などが行われます。都道府県のウェブサイトで確認できるので、万一に備えて事前にチェックしておきましょう。
なお、夫婦共に離れた職場で働いている場合は、家族の安否確認の方法や合流場所なども事前に決めておくことが大事です。
災害発生時から3日間は人命救助が最優先されるので、すぐに支援物資を被災地に届けることは困難です。ですから、少なくとも最低3日、できれば1週間生活できるだけの備蓄品を用意しておきたいところです。
Q5.避難所のトイレは、防犯面や衛生面で不安です。きれいで安全なトイレはありますか
A.各自治体で「トイレトラック」の普及を推進しています
避難所におけるトイレの問題は、特に女性にとっては非常に深刻です。そもそも避難所のトイレの数自体が少ないし、すぐに汚くなってしまいます。水が止まっていれば、使用さえできなくなり、衛生面でも問題です。
自治体によっては、たとえば公園のマンホールのふたを開けてその上にテントを設置して、簡易的なトイレとして使用できるように工夫しているところもありますが、強風が吹けばテントがめくれるなどの不安もあるようです。
そうしたなか、非常に期待されているのが「トイレトラック」です。専用のトラックの荷台にしっかりとした個室のトイレが作られており、プライバシーが守られます。水タンクも設置されているので、衛生面でも安心です。そのうえ、移動ができるので、被災地に近い自治体から何台も応援に送り出すこともできます。
各自治体の公明党が現在、推進しているところです。
啓発活動
公明党の女性委員会では、防災減災に関する啓発活動として、定期的に勉強会を開催してきました。また、防災月間である9月には、「女性の防災」という視点で街頭演説会などを各地で行ってきました。
また、神奈川県では「災害時あんしんカード」というものを配布してきました。「災害用伝言ダイヤル」の使い方や、防災減災のチェックリスト、地震発生時の対応方法などがわかりやすく記載されています。加えて、自分が救助された場合のために、氏名、住所、連絡先に加え、持病やアレルギー、常用薬などがメモできるようになっています。コンパクトな形状なので、定期券入れや財布の中に入れておけば、いざというときに役立ちます。
読者へのメッセージ
先日、防災に関連したお話を伺う機会がありました。非常に示唆に富む話だったので、少し紹介したいと思います。
印象的だったのは、大きな災害が起こったときにいちばん大変な思いをするのは、経済的に困難な状況にある人や、高齢者や女性、子ども、病人など、弱い立場にある人だということでした。災害は等しくみんなを襲いますが、そこから立ち直る際には社会的弱者がいちばん苦労するわけです。
災害時は、平常時とは異なります。しかしその一方、個人を取り巻く困難は平常時と地続きなので、平常時に困っている人たちは、災害が発生するとその困難がなお一層凝縮されます。だからこそ、平時からそうした日常の困りごとを解決していくということが重要で、それが災害対策のひとつにもなりえます。ゆえに、高齢者や女性、あるいは障がいや病気を抱えた人など、弱い立場の方たちの意見や視点を取り入れていくことが、防災減災にとって非常に重要なのです。
公明党は、福祉の党として「誰一人取り残さない社会」を目指して政治をやってきました。そういう意味では、防災に力を入れるということは極めて自然なことであり、これからもなお一層防災減災に取り組んでいかなければいけないと決意しております。
「パンプキン」の読者の皆さんも、そうした視点をもちながら、我が家、そして我が地域を共々に守っていきましょう。
公明党・参議院議員
佐々木さやか(ささき・さやか)
青森県八戸市出身。創価大学法学部卒、同法科大学院修了。弁護士。2013年7月、参議院議員に初当選し、現在2期目(神奈川県選挙区)。公明党青年委員会副委員長、同女性委員会女性局長、同女性防災会議議長、同神奈川県本部代表代行。横浜市在住。